人助け

 大震災のニュースをみていると人助けの記憶がよみがえってきます。随分と昔のことですが今までに3つの直接的な人助け経験があります。


 1.海
 千葉房総の千倉でのことです。浮き輪の彼女と海水浴場の外側ブイ近くで戯れていると、「助けてください」との声が聞こえました。最初は冗談かと思っていました。何故なら助けを求めた中学生位の2人の女子は、ちょっと前まで明らかに競泳選手らしい泳ぎをしていて、しかも地元っこでこの場所にとても慣れていたようだからです。私はニコっと笑顔で返したら「本当なんです。この子が足をつっているんです」と真剣に訴えられました。

 瞬時の判断で彼女の浮き輪を取り、足をつった子と彼女に捕まらせました。あまり泳げない彼女が浮き輪を素直に差し出した勇気に感心しつつも状況は悪化していました。この時天候が急変し夕立が襲ってきたからです。私は2人を後ろから平泳ぎで押しつつ岸辺に近づこうと必死でした。ところが運悪く岸辺から沖へ向かう流れ上にいたので、本気の泳ぎにも関わらずどんどん沖に流されて行くのです。

 監視員が気づいてくれることを期待していたのですが、なんとも非常のアナウンスが「そこの人たちふざけていないで早く岸に上がりなさい」と。怒りやら恥ずかしいやらで。本気でまずいと考え、方向をやや斜めにし、沖へ向かう流れから外れるように、最後の力を振り絞り押し泳ぎをしました。何とか、ちょっと外れることに成功し岸へ向かう流れに乗ることができ危ないところで助かりました。

 もう海は十分に堪能したので、それが私の最後の海水浴となりました。


 2.電車
 山手線内回り大塚駅から池袋駅までの出来事です。当時池袋に住んでいた私は彼女と2人で家に帰る途中でした。車内は夜でしたがそんなに混んでおらず、私たちは扉付近に立っていました。大塚駅を出発したあたりで、隣の吊り輪につかまっている男が、正面に座っている18歳位の男の子に平手打ちを始めたのです。「なんだ。その目は」みたいなことを言っていました。その男の子は黙ってその男を睨んでいました。

 あまりの唐突なできごとに虚をつかれたのですが、私の右手がその男の胸倉を掴んで「やめろ!」と制止していました。男は一瞬ニヤっとして、こっちを見据えてました。ヤバイ、喧嘩になるなと思っていると男から最初の一発が。私も反撃したのですが、周りの乗客にぶつからないように、そして彼女も守りながらとハンディキャップがありました(まあ、叫び声一つあげずに邪魔にならないように立ち位置を変えた彼女に妙に感心していたのですが)。

 男は程よく酔っていた上に現役の肉体労働者風でかなり強く、池袋到着時にもつれ合うようにホームに出たのですが、肝心の殴られていた男の子はびゅーっと逃げていき、男の子が殴られていたのを黙ってみていたおやじ達が、説教じみたことを私に言って去っていったことに腹がたちました。結局駅員が来たので男は離れていたったのですが、残った私は彼女に「強かったねー」と話していました。そうしたら、逃げていったはずの男の子が戻ってきて「ありがとうございました」と。私はハアハアしながら「ウン」と笑顔で返事していたと思います(たぶん)。


 3.深夜
 当時川沿いにあった私の小さなオフィスで、夜中1時位に彼女と電話をしていました。そうしたら突然「キャー」と外から聞こえてきました。キャー?なんなんだ「ちょっと待ってて」と彼女に言い残し外に出てみたら、10mほど先で若い女の子が男に後ろから抱きつかれていました。うーんこの状況は?襲われているのか、いちゃついているのか、どっちだと観察していると「助けてください」との言葉が、私は瞬時に男に向かって行きました。

 男は向かってこられたことによほど驚いたのか、女の子を置いて逃走し始めました。私は強い怒りで追い始めました。男が私のオフィスとなりの階段に潜んでいたのが明らかだったからです。男は用意周到にスニーカーを履いていました。こちらは革靴でしたが何とか追いつき、男を資材置き場に追い詰めました。そして男が暗がりにじっと潜んでいるのが気配でわかりました(子どものころ熊狩りとかの猟に参加していたので気配に敏感なのです)。本能的に今大変危険な状況にいることがわかり注意深く観察していると、暗がりで一瞬ナイフが光るのが見えました。

 これ以上は命のやりとりになると考え女の子の元に戻りました。オフィスに入れ警察に連絡しました。放置しておくより警察が捜索していることを犯人に知らしめ、二度とこの近辺にこさせないようにしたかったからです。女の子は直ぐ側のマンションに住んでおり、犯人はこの子をターゲットにして待ち伏せしていたようです。

 一通り落ち着いた後で彼女に「太陽にほえろ!に出てくるような刑事達が来たよ」「へーそうなんだ」なんてのん気な会話をしていました。

 私自身は非常に奇妙な体験をしがちなのですが、彼女の要素が加わると人助けの体験に変容するのかと妙に納得していたものです。